肺腫瘍

口から吸った空気は気管・気管支を通って胸の中にある“肺”に入り、酸素を体に取り込み二酸化炭素を体から出す“呼吸”をしています。

肺は左右両側にあり、右は上葉・中葉・下葉、左は上葉・下葉という袋のような臓器で、非常に目の細かいスポンジのようになっています。その肺の中にできる腫瘍を“肺腫瘍”と呼びます。レントゲン検査やCT検査など画像検査だけでは悪性腫瘍(原発性肺癌や転移性肺腫瘍など)か良性腫瘍かは判断できません。腫瘍から細胞や組織を採取(生検)し顕微鏡で細胞を見て悪性か良性かを診断します(病理診断)。手術という方法で手術中に肺腫瘍から細胞または組織を採取、病理医に約30分で判断してもらい、その結果に応じて引き続き外科治療を一度に行うことも多いです。

原発性肺癌

60歳以上、男性に多く、2020年がん統計では癌で亡くなるかたのうち男性1位、女性では大腸癌についで2位で増加しています。喫煙が原因となることは広く知られていますが、最近では非喫煙者でも遺伝子変異(配列の変化)が原因であるものもわかっています。

病気の進行程度(病期またはステージI~IV期)・肺癌の種類(顕微鏡で細胞の形を見て診断)があり治療方針(手術か抗がん剤かなど)は様々です。胸部CTで淡いすりガラスのような影として偶然発見される早期肺癌、癌が進行し固く濃い影となると周囲の組織を引き込み、さらに進行すると、リンパ節転移や肺の根元の血管や気管支、胸壁(筋肉や肋骨)など周囲の臓器まで巻き込む進行がんになります。
癌の進行度や種類により治療方針(手術か抗がん剤かなど)や方法が異なり、私たちは呼吸器内科や放射線診断科、放射線治療科と毎週の呼吸器診療カンファレンスで、一人一人の患者さんに最もよいと思われる治療方針を丁寧に検討・決定しています。

治療

近年は手術も薬物療法も急速に発展していろいろな治療法が提案されています。

手術では、“がんを残さず取り除くこと”が最も大切な目的で、“肺葉切除とリンパ節郭清”を基本とし患者さんの肺癌の進み具合と患者さんの体力や併存疾患(糖尿病・腎機能障害・肝機能障害など)・心機能・呼吸機能、治療に対する考え方等も合わせて肺を切除する範囲などを主治医と良く相談し決めていきます。

肺癌の種類による治療法の違い
原発性肺癌には細胞の形により様々な種類(組織型)があり、主には腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌など(非小細胞がん)と小細胞癌にわけて治療方針を検討します。

  • 小細胞癌:喫煙との関連が深く、原発性肺癌の10~15%を占め、がんの発育・転移共非常にはやいのが特徴です。しかし、抗がん剤や放射線治療が有効なことが多いです。基本的には放射線治療・抗癌剤治療が行われますが、腫瘍が小さくリンパ節転移がないI期には手術が行われます。
  • 非小細胞がん:腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌など
    切除可能な非小細胞がん(多くはIIIA期まで)には外科的切除が行われます。
    基本的にはがんのある肺葉を切除し、リンパ節を郭清します。

肺癌の進行度による外科治療の種類
肺癌の大きさやリンパ節転移の有無によってがんの進み具合(病期やステージと呼びます)がI期~Ⅳ期の4段階に分かれ、治療方針も異なります。(図2:肺癌取り扱い規約)

スリガラス陰影の早期肺癌(図1A)
CTなどで発見される早期の肺癌で、腫瘍の場所・大きさ・数などによっては切除範囲が小さい縮小手術(区域切除や部分切除)を行います。

充実性腫瘍の肺癌(図1B)
がん細胞の密度が多くなると固い充実性腫瘍となります。通常は肺葉切除とリンパ節郭清を行います。

局所進行肺癌(図1C)
肺癌が周囲臓器(肋骨・気管支・血管など)を巻き込んでいる場合(浸潤)やリンパ節転移がある場合、手術前に約2か月間の抗癌剤放射線療法やがん遺伝子・免疫に応じた治療で腫瘍を小さくしてから手術を行うことがあります。

その他の治療法

薬物治療
II期以上の非小細胞がんには手術後に体力が戻ってから再発予防のために化学療法やがん遺伝子や免疫に応じた治療が検討されることがあります。

放射線療法
化学療法との併用、もしくは放射線単独の治療が行われることがあります。また、脳転移に対しても放射線療法が行われることがあります。

原発性肺癌 取り扱い規約(第8版) T:腫瘍の大きさ、N:リンパ節転移の程度

転移性肺腫瘍

原発巣(癌ができた元々の臓器:大腸/直腸癌、頭頚部癌、口腔癌、腎癌、卵巣・子宮癌など)の癌細胞の一部が、血液やリンパ液にのって肺でとどまり大きく腫瘍(転移巣)となったものです。原発巣経過観察中の胸部レントゲンやCT検査で発見されます。転移性肺腫瘍は肺にできた腫瘍ですが、原発巣の性質を強く持っており、患者さんに応じて、原発巣の主治医と治療を相談・決定します。複数個所に病巣がある場合もあり、なるべく切除する肺は少なくします。病巣の場所・大きさ・数により、肺部分切除・肺区域切除・肺葉切除などにより病巣を完全切除します。
肺の病巣が複数であっても手術を工夫することで完全切除できることがありますのでご相談ください。

術後の治療や経過観察は、基本的には原発巣を診ていただいている診療科で行ってもらいます。

良性肺腫瘍

肺癌疑いで手術切除した結果、原発性肺癌でも転移性肺腫瘍でもない場合があります。肺過誤腫などが含まれます。

肺腫瘍に対する術式

肺腫瘍の診断(原発性肺癌か転移性肺腫瘍か良性肺腫瘍か)、腫瘍の位置、腫瘍の数、悪性腫瘍の場合で進展程度により、肺部分切除術・肺区域切除術・肺葉切除・肺全摘術に分かれます。腫瘍以外にも、患者さんの呼吸機能・心機能・体力・年齢などを考慮して切除範囲を相談していきます。

*Virtual-assisted lung mapping (VAL-MAP)法
指で触知困難な小さい病変などの場所が分かるように印をつける方法です。
手術前日:高解像度CT画像で3次元再構成したバーチャル気管支鏡をガイドにして、気管支鏡下に少量の色素(インジゴカルミン)を肺表面に吹き付け印をつけます。